「だって、貴方があまりにも鳥になりたいと言うものだから」
「何度も何度も聞かされれば、興味を持たないほうがおかしいじゃありませんか」
空に上げていた視線をおろして、光秀は肩越しに笑んで見せた。
一見穏やかな微笑み、しかし嘲るように細められた目が狂ったように青白く光っている。暗闇の中でこそ映える歪なその笑い方を、嫌いではないから政宗は何も言わない。
隣に立って代わりに空を見上げれば、抜けるように青い気持ちのいい空。柔らかな陽射しは眠気を催すほどに暖かい。
「……それで、感想は?」
光秀は政宗に微笑みかけただけで、直接には答えずもう一度空を見上げる。
獲物でも探しているのだろう、ちょうどいい具合に鳶が頭上で鳴いていて、その大きな翼を悠々と伸ばし風を切って空を飛ぶ様が二人の目に映った。
政宗は思わず見蕩れる。
何にも頭を垂れることなく、鋭い目で高みから全てを見下ろすその孤高で美しい姿に。
何にも縛られることなく、広い空を自在にどこまででも飛んでいけるその自由に。
光秀が愉快そうに口を歪め、くく、と引き攣れた音を立てて笑った。
「本当に、貴方は鳥がお好きのようだ」
「yes. ……だが、アンタは嫌いみたいだな」
返すと、今度は不思議そうに首を傾げてきた。彼は案外感情を態度で表してくる性質だが、その仕草一つ一つが大仰でどうにも嘘くさい。
相手がどう受け止めようと、光秀にとってはどうでもいいのかもしれないが。
「嫌いじゃないですよ」
穏やかに否定する声は先程全く同じ抑揚で、政宗が肩をすくめるとしかし本当ですよと顔を寄せてくる。
戯れのように指と指が絡められ、かちゃりと鉄鋼の冷たい音が響く。
「ただ、貴方に鳥は似合わないと思っただけです」
「……what?」
「鳥になるのはおよしなさい。独眼竜」
目の前でゆったりと告げられる、その言葉は厭にはっきりと耳に届いてきた。
「鳥なんて、空を飛んでいるだけじゃないですか。あとは餌を捕るか子を産むか、他の動物と何ら変わりありませんよ。貴方ほどの人が鳥に堕ちるだなんて、勿体ない」
「……その空を飛ぶってのに憧れてんだけど。俺」
「似合いませんよ。貴方は血まみれで地面を駆け回っているほうが綺麗です。走ればいいじゃないですか、どこまででも」
光秀が更に顔を近づけると、視界が白く染まった。
じっと見つめてくる蛇のような細い光彩は、誰でもない政宗のみを捕らえて外さない。
顔には出さないが少しだけ胸を騒がせる。
「ねえ、独眼竜。だから貴方は次も人間に生まれてきてくださいね」
「奪い合い、殺し合い、腐肉にまみれ血で血を洗って、幾多の死体の山を築いても、貴方は人間でいてください」
声音だけは蕩けるように甘い言葉が身体に擦り付けられていく。
うっとりと纏わりつく言葉を払いながら、政宗は口元を歪めた。真直ぐに視線を交わし、見かけだけは真摯に語り継がれるそれはどこか愛の告白に似ていた。
「そうすれば、次の御世でも私は貴方を退屈させませんよ。きっとね」
「結局自分のためじゃねえか」
来世までこんな男に付きまとわれてたまるかと、白い頭を叩きながらそう返してやったら光秀は目を細めて嬉しそうに笑った。
生まれ変わっても
06.5/28