化かしあい



一人の女の子が死んだ。
高龍を庇って炎の中に消えていった。
周りのものが力づくで連れ出すまで、高龍はそこから動こうとしなかった。





あれから数日。高龍は何事もなかったかのように振舞っている。
ただ、学校が終わったあと鎧扇寺高に行くことが多くなった。
紫暮に付き合ってもらって、周りのものが呆れるくらい手合わせを延々とやる。
前よりもっと強くなれるように。
自分のせいで誰かを傷つけてしまうことがないように。
高龍は何も言わなかったがその意思が伝わったのだろう、紫暮は気の済むまで彼女に付き合った。










「覚悟はいいか、京一?」
「いつでもいいぜ」
「その心意気やよし!」
「来い!こーちゃん!」



「「じゃんけん、ぽん!」」



「よっしゃ、俺の勝ちぃ!残念だったな、京一!」
「くっそー……なんでそこでパーを出すんだよ……」
「ほらほら。黄昏てないでちゃんと約束果たせよ」
「はいはいちゃんとジュースおごってやるよ。俺コーラ飲むけど、こーちゃんはなに飲むんだ?」
「俺もコーラでいいよ。ボトルでな」
「うあ、横暴だ!おとなしく缶にしとけ!」
「はっはぁ〜ん、誰が勝者だと思ってんだよ、京一。敗者はおとなしく勝者の言うことを……」

がしゃんがしゃん

「ほら」
「………………まあ、今日は勘弁してやるか」



京一も気が向いたとき彼女についていって、帰りに公園に寄って一休みしたりする。
適当なところに腰を落ち着けて、馬鹿なことをいいあったり、口喧嘩をしたり、時には殴りあったり。
学校となんら変わらないことをぐだぐだとするのも、二人にとっては日常茶飯事になっていた。

「……そういやお前って聞こうとしないよな」
「ああ?」

ポツリと落ちた言葉を拾って京一が尋ねると、高龍は聞いてたのかよ、と舌打ちをしてそれでも落ち着いた声で答えた。
思い返せば、この女は戦ってるときも馬鹿やってるときもいつもムカつくくらいどこかが冷静だ。
もっと素直になれればいいのに。
もっと周りに頼ればいいのに。

「美里や醍醐なんかはそれとなく聞き出そうとしてたけどさ」
「ああ……まぁな」

肝心の言葉が抜けていたが、それが何を指すかはなんとなくわかった。
栗色の髪をした、儚い笑みが印象的な。
もうこの世のどこにもいない、高龍を庇って逝った少女。比良坂紗夜。
相槌を打って、さてどう答えようかと京一は考えこんだ。
思い浮かぶ言葉はなんだかどれも説教くさくて嫌になる。

「……こーちゃん、紗夜ちゃんのことあんま話したくねーんだろ」
「…………」
「だから聞かねえよ、俺は」
「……そっか」

京一の短い答えに高龍は苦笑を投げて、京一も高龍に笑いかけて彼女の肩を軽く叩いた。
その笑みは、高龍と比べるといささか……もとい、かなり砕けたもので。

「あ、でもこーちゃんが教えてくれるってんなら喜んで聞くぜ。っつーか、ぜひ聞きてえなあ。
 紗夜ちゃんてどんな娘だった?親友である俺が知らない間にちゃっかりひっかけやがって、この色男!」
「そうだなあ……ってオイ!聞かないんじゃなかったのかよ!?」
「それはそれ、これはこれ、だ!」
「訳わからんわ!」





いくら明るく振舞っていても、ぼろは必ずどこかに出てきて。
それが自分の前にいるときだけということが嬉しくて、でもそんなときでも彼女は泣かなくて。
だからという訳ではないが、高龍が強がるならそれに付き合ってやろうと思った。
気を使わせないようこちらも平静を装い、笑いながら。
いつか彼女が比良坂のことを安らいだ気持ちで話せるようになるまで。
彼女が罪悪感のあまり壊れてしまわないよう、高龍の強さと弱さ、全てを受け止めてやろうと。

そう思った。





02.6/16