コイン Date:2003/09/19(Fri)
100円玉を一枚放れば、キン、と金属特有の澄んだ音を立ててそれは一瞬宙を舞い、
少々危うげながらも無事蝶野の手のなかに収まる。
収まる瞬間は見ない。そういうルールだ。
鷲尾の動体視力なら、手のなかに落ちるその瞬間さえも正確に見えてしまう。
「……さて。表か、裏か。どっちだと思う?」
「表です」
「残念。裏だ」
もう一度、と呟けば硬貨がまた宙を跳ねて。
今度は、先程よりもきれいに手の中に収まった。満足げに訊ねてくる。
「どっちだ?」
「裏です」
「はずれ」
「今度は」
「……裏です」
「違う」
「…………」
「勘が悪いんだな、鷲尾」
「申し訳ありません」
「別に、謝ることじゃない」
100円玉を鷲尾の手のひらに乗せると、口の端を歪めて笑う。
どうやら今日は機嫌が良いらしく、その様はとても楽しそうで。
「……どうした。そんなにソレが珍しいのか?」
「いえ、そういう訳では」
何故だかこの硬貨に感謝したくなったといえば、創造主に笑われてしまうだろうか。