あにとおとうと Date:2003/10/10(Fri)
良い環境良い人材良い教育。
「奴」はいつだって自分の一歩先を歩いていた。一つも二つも良いものを手に入れていた。
一年。
たった一年早く生まれてきたというだけで。
唯一自分が奴より優れているものを持っているといえば、体力くらい。
奴は原因不明の奇病に冒されているらしくしょっちゅう体をこじらせているが、
それを理由にやはり自分より大事にされている。引き離される。
蝶野家に必要なのは、蝶野攻爵ただ一人。
自分はただのスペアに過ぎない。
機会があるたびにそれを何度も認識し、確信させられてばかりで。
憎かった。
奴がいる限り、自分は今以上の高みへ登ることが出来ない。
奴の存在に押しつぶされて、いもむしは蝶になることが出来ない。
憎かった。
兄の病状が悪化するたびに、死んでしまえばいいと本気で願う。
奴が中学を卒業した後、
父が望んでいた一流の高校でなく私立銀成学園に進学すると聞いたときは
(自慢できるものが趣味の悪い制服くらいしかない、つまらない場所だ)
思えば今までで一番幸せな時間だったかもしれない。
ざまあみろ。
初めて、生まれて初めて兄が自分と同じ地点に立った。
自分と同じ場所まで引きずりおろされた。そう思った。
今まで一流のものしか手に入れたことのない奴が、どれほど悔しそうな顔をするのか知りたくて。
こっそり嘲笑いながら様子を伺っていたけれど、奴は無表情でなんの反応もしていなくてひどく腹が立った。
こんな奴、早く死ねばいいのに。