むかしむかし Date:2003/10/22(Wed)
咳き込んだ途端、込み上げてくる錆びた鉄のような気分の悪い味に耐え切れず押さえた手の
隙間から赤黒い血がしとどに零れ落ちた。
熱がでてきたのだろう、意識が溶けてしまいそうなほど熱いくせに浮き出る脂汗は嘘の様に
冷たい。
熱い。寒い。冷たい。熱い。熱い。熱い。
……とても寒い。
何度も何度も咳き込んで、その度に揺れる体の反動にとうとう耐え切れなくなってまず最初
に膝が崩れた。
音を立てて身体が倒れる。
それでも咳は止まらない。
血が止まらない。
板張りの床に触れた肩から、じわりと冷気が伝わってきて意識が少しだけ鮮明になる。
一人しかいない、小さな部屋に自分の喉を空気が通る音だけが聞こえていた。
労わってくれる優しい声も。
憐れむ気遣いも。
蔑む嘲笑も何も聞こえない。
一人だけの、小さな小さな世界。
誰も自分の存在を知らないし、だから死んでも誰も困らない。
しばらくしてから咳は止まったけれど、
とても寒くて攻爵は血まみれの両手で自分の肩を強く抱きしめる。
死にたくないと、それだけを考えていた。
ろんりぃあるじ