ゲーム Date:2003/11/07(Fri)
「チェック」
言葉と同時に突き出された剣の切っ先が狙いを外さず己が首を狙っていることを認め。
逃げ道がないことに小さく溜息をつき、キングは大人しく負けを認めた。
「……これで7敗目か」
「私は、やっと7勝目です」
「十分だ」
一言だけで笑い飛ばし、負けたのは悔しいがそれほど不満でもない。
蝶野が右手を水平に動かすと、ばらばらと適当な音を立てて全てのチェスの駒が舞台から払
い落とされた。
勢いで床に落とされたナイトの駒(ついさっき相手のキングに止めをさした功労者である)を拾い、
現在戦績7勝12敗の巳田はついでに腕の時計を見て創造主に声をかける。
「創造主、申し訳ないのですが私はこれで」
「ん?……ああ、もうそんな時間か」
ホムンクルスになったとはいえ、教師を続けている以上社会のしがらみと言うものがついて
くる。
つまり学校の授業。
一応まだ学生である蝶野にもそのしがらみは通用するのだけれど、椅子から立ち上がる気配
は全くない。
紙のように白い顔の色と時折でてくる辛そうな吐息に巳田はその理由を想像している。
多分外れてはいないだろう。
部屋を出るとき、入り口で鷲尾とすれ違った。
睨まれた気がする。
身に覚えは全くないのだが。
「――お前は次の手が分かりやす過ぎて面白くないんだ。
巳田と遊んでた方が、いい暇つぶしになる」
部屋から聞こえてきた、そんな声。
人気のない廊下に靴音を響かせ、次から鷲尾の前で創造主と二人きりになるのは控えた方が
いいだろうかと、考えすぎだとわかっていてもそんなことを考えて寄宿舎をあとにした。
関係ないんだけど、巳田センセは英語が得意だからって理由だけで教師の道を
選んだんだといわれても素直に納得できると単行本見て思ったよ