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黒を白に Date:2003/11/08(Sat)
一人の学生が学校に来なくなった。
町の人が何人も行方不明になった。
鳥や蛇や花が人間になった。
人間がホムンクルスになった。
少しずつ、少しずつ何かが変わっていって。
それでもこの町は平和な日常を続けている。
「何か変わったことは」
「ありません、創造主」
「――そうか」
神経質にきちんと背筋を伸ばして座る、目の前の男。
世間の「常識」を当てはめるならば、むしろこちらが敬意を払わねばならなかった相手。
彼にまだ「人間」としての意識が残っているとしたら、いま何を考えているだろう。
病弱でろくに体を動かせない、態度が大きいだけの貧弱な生徒相手に体を作り変えられてそ
れでも昔軽蔑していた人間に恭しく頭を下げて。
牛や魚の代わりに人間を食べて。
その人間のフリを続けているのに、どの人間もその違和感に気づかない、気づいてくれない事実
に何を思うだろうか。
そもそも、「本物」の巳田という男を誰が知っている?
段々と思考は不快なものへと移っていって、蝶野は大きく一度息を吐いた。
一人の学生はある実験に没頭し始めた。
その結果、町の人が何人も看取られることなく化け物に食べられた。
鳥や蛇や花が人を食うことを覚えた。
人間が人間をやめることができるようになった。
少しずつ日常の裏から塗潰されていく、変わっていくその現実を誰も知らない。
気づきもしない。
なんと小さくてつまらない世界。
それでも自分はその世界で生きていたいのかと自問をすれば、
あまりに可笑し過ぎて巳田に訝しげな顔をされる程度に笑みを浮かべた。
巳田センセが英語教師だと知って無性に悶えた