腕を伸ばす、指でひっかけて手繰り寄せる。
それだけの動作でアイツの黒い髪は俺の手の中におさまった。
ぐい、と力任せに引っ張ると抵抗される。嫌そうに眉根を寄せてこちらを振り向く顔。
本当に嫌なら、髪には絶対触らせないことを俺は知っている。
「……なんだ、いきなり」
「長っげえ髪だな。短い方がヅラだってばれねえぞ」
「何度も言わせるな。ヅラじゃない桂だ。大体お前はいつも」
ぐちぐちと続く小言には耳も貸さず、俺は長い黒髪を口元に手繰り寄せる。
男のくせに艶やかな黒髪。口付けを落とすと桂の甘い匂いが俺の口内を満たしていく。
野郎同士で気持ちが悪いと、俺は喉の奥で笑った。
突然笑い出した俺を、桂が怪訝な顔で見下ろしている。
理由なんて今更説明する気もない。
(そして、コイツを手放す気もない)
最初から同じ道を歩めるとは思っていなかった。
それでも、手を伸ばせばいつも手の届くところにコイツはいた。いる筈だった。
(あの頃の俺は馬鹿みてえにずっと同じ夢を見ていられると信じていたのだ)
幼年期の終わり
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