ぱぁん













なんだよなんだよなんだよなんだよなんなんだよ。




たたかれたみぎほほが、じんじんとしびれるのは、おれのせいじゃない。

(なんだよなんだよなんなんだよ)(なんでアンタないてんの)
(普通なくのはおれさまじゃないの)


「な、にすんの。旦那」

「う るさ いっ」

「なんで俺様たたかれなきゃなんないの。
いくらなんでもひどいじゃないか」

「ば か テメェ が」

「うん?」

「テメ がっ 」


しゃくりあげてるなんて失恋したおんなのこみたいだよ。

(いいや)
(まちがっては、ない)

「テメェ が もう嫌だって 言う から」

「だってそれは」

「ば か」


かれはもいっかい、ばかとつぶやいてしゃくりあげた。
おれはただただウドの大木みたいにぽつんとたちつくして、ひっくひっくと上下するその肩をみつめてる。

(やめてよなきやんでよわらってよ)(おれまでなきそうになるだろう)(なあ)


「だって、もう、しかたないじゃないか。
アンタはお殿様で俺はただの忍びで。
だって、俺たちは」


だって、だってとくりかえすたったひとつの言葉を、かれがわかってくれますように。

「諦めんなよ、諦めんな。
テメェは俺を抱き締めたくせに、大好きだってささやいたくせに、さ、最後の最後で、捨てんのかよ、諦めんのかよ!
ば、か」

「それでも戦は続いてる!
俺だって、ほんとは諦めてたまるか!」

「じゃあ諦めなきゃいい話じゃねえか!」


その言葉が、きぃんとひびいた。


「そんな勝手なこと 許さねえ よ」


だって、かんたんなんだ。

(なにより、どれより)

あきらめちゃえば、それでおしまい。
アンタがおれにささやいたラブもおれがアンタにささやいたラブも。

(きえてなくなる)
(ぽしゅん)


「旦那?」


びくりとふるえた肩をだきしめればいいのかな、泣きはらした目をなでてあげればいいのかな、
なにもつかめないその手をつつんであげればいいのかな。

こんなにだいすきでも、おれにはあきらめることしかできないの?
ねえ、回答用紙はどこ。
大正解はどこにあるの。


(あきらめは)
(しあわせにつながる?)
(つながらない?)

(それは、なぜ)


ぽつり、おちた滴を掬いとることなんかできない。
救いとることなんか、できない。

だけど、そいだけど。

「…ごめんね、ごめん」

「さ す」

「やっぱりあきらめるしか、できないんだ」

ぐしゃっとゆがめたかおを見ないように見ないように、ひっぱった。ぐい。



「やっぱり俺にはあきらめることしかできない。
だから、俺は、アンタをあきらめることをあきらめるよ」



(だからもうはなさないよ)(後悔したって)(おそい)