冷たい手
震える手を握ったら、いつかの記憶よりずっと冷たくなっていることに戦慄を覚えた。
「緋勇……菩薩眼を守れ」
ああ、今一番助けが必要なのは誰でもない自分だってことに気づいていないのか、天童?
お前は何時だって菩薩眼の……美里のことしか考えていないんだな。
鬼となったお前に止めをさしたのも、こうして死にゆくお前の手を握っているのも、美里でなく俺だって言うのに。
今一番お前のことを考えているのは、誰でもない、この緋勇高龍なのに。
ずっと、ずっと俺の方が誰よりもあんたのことを愛しているのに!
頭上で光る月にも負けない、それだけは前と変わらない鋭い目の光がひたと俺を見据え、最後の言の葉を紡ぐ。
傷だらけの身体でもう息をするのも辛いだろうに、こんなにも彼に気にかけてもらっている美里が正直羨ましくて妬ましくて仕方がない。
「いいな、緋勇……」
「………………わかった」
けれど、一体誰がそんな醜い感情をこの男にぶつけられるというのだろう。
もうすぐ死んでしまうこの哀れな男を目の前にして、一体誰が。
痛む喉に叱咤してやっとそれだけ答えると、天童は少し笑って目を閉じた。
彼の祭は終わったんだ。
死に顔は傷だらけだったけど、何かを成し遂げた後のように安らかで、そして綺麗だった。
ここで俺の祭も終わればどんなに楽だったろう(約束なんかするんじゃなかった。でも彼の期待を裏切りたくなかった)
無様にぼろぼろ涙をこぼしながら、彼の死んだこの月の綺麗な日と俺しかわからない彼の手の冷たさを、例え死んでも忘れたくはないと切実に願う。
ああ、憎らしくも愛しい私の可愛い人!貴方は最期まで私を狂わせる!!
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