境界
「ひーちゃん。もしかして、アンタは鬼道衆となにか関係でもあるのか?」
「なんで?」
さらりと疑問を疑問で返されたが、京梧はそれで終わらせない。
彼女が余り物事に動じない人物であるということは元からわかっているのだ。
綺麗な半月が照らす夜の龍泉寺を、二人縁側に座り眺めながら会話を続かせる。
「御神槌、桔梗、奈涸……こいつらと戦ったときの自分の顔、わかるか?」
「あたし、目は顔に二つしかついてないし」
「すげえ辛そうな顔してたんだよ。醍醐たちは気づいてないみたいだけどな」
「争いごとは嫌いだもん」
「それだけじゃないだろ」
淡々とした答えに京梧が納得するわけもなく。
巽は苦笑しながら続く戦いのせいで傷だらけの手を空にかざし、言葉を一つ一つ考えながら答えを続けた。
「なんて言えばいいのかわからないんだけどさ……あたしは、御神槌たちの言い分も少しだけわかる気がするんだよ」
驚いた顔をする京梧に柔らかい笑みを見せて、一呼吸するとまた使う言葉を考えながら続ける。
「確かにやりすぎたかもしれないけど、復讐だろうが義憤だろうが、何かをしたくて、何とかしたくて。
その結果があの行動だったんじゃないかな。彼らの生き方を真っ向から否定することは、あたしには出来ない」
思い出すのは、美里や醍醐が鬼道衆と語っているときの巽の姿。
表情の無い顔を俯かせ、そうと悟られないよう小さく鋭く唇を噛みながら美里たちの理想論を聞いている彼女の姿。
「でもあいつらは……人を殺してる」
「うん。でもほとんどが今の幕府では裁けない人たちだよね」
「ひーちゃん……」
「そんな顔しないでよ京梧。それだけじゃいけないのは、あたしもわかってるつもりだから」
鬼道衆を何とかしたいと考えてるのは、それはあたしも同じだから。
言い聞かせるような口調が、どこか物悲しくて。
「……ひーちゃんは、俺たちの仲間だよな?」
そんな今更な、聞いたってどうしようもない疑問が何故か口から滑り落ちる。
彼女は幕府の隠密、龍閃組として自分達と行動を共にしているのに。
なのに、返ってきた答えは想像していたものと少し違って、
「味方かもしれないし、敵かもしれない」
「それは……」
「それは、京梧の考え方一つだ」
曖昧な答えとともに浮かべた笑みが、泣き顔に見えたのは京梧の気のせいだったのだろうか。
|