君は誰



からからと軽快な音を立て、扉を開けていつもあの人はやってくる。
お世辞にも愛想がいいとはいえない私にも屈託なく話しかけてきて、明るく笑って場を和ましてくれて。

「この前潜った時の戦利品。鑑定、お願いできるかな」
「ええ。見せてください」

龍泉寺の地下を下り、鍛錬の途中手に入った武具や道具の類を見極めるのは私の役目だ。
身を置いている骨董屋を単身で守っても破産しない程度には、少しは他の人より知識が深い。
深いといっても、専門でないから底は知れているのだけれど、
それでも誰かの……大切な人の役に立てるというのは決して気分の悪いものではない。
持ち寄られた戦利品を見定めている間、彼女はじっと私の作業を見守っている。
見ているだけでも楽しいと、理由を問うた時教えてくれた。
事実、私を見つめるその目は暖かく穏やかで。そして信頼に満ちていて。
少し気恥ずかしく、嬉しい。誇らしい。
どんなに気さくに振舞ってもどこかで一歩引いている彼女の、そんな顔を間近で見られるのは私くらいだろう。



だからこそ、同時にもう一つの顔も私は知っている。



穏やかな顔の裏に潜む、寂しい顔。
笑っているのに、泣いている……そんな顔。
骨董品を弄っている私を見るとき、不意にその顔が浮かぶ時がある。
おそらく、私を通して誰かを思い出しているのだろう。
気丈な彼女にそこまでの顔を作らせる、大事な誰かを。


彼女が今誰を見ているのか。
聞きたいけれど、でも自分ではまだ役者不足のような気がする。
聞けるほど、まだ自分は強くも優しくもない。
だから聞くことは出来ないけれど。でも。





貴女は今、一体誰を思っているのですか?
私を通して今彼女に思われている、あなたは一体誰なのですか?