墓場の舞台 スローフォックストロット。という踊りを、葉佩は踊ることが出来るらしい。 しかも完璧に。男役女役関係なく。 どこで覚えてきたのか聞くと妙に長い外人の名前をつらつらと何人か上げて、彼らに教えてもらったのだと答える。更に彼女は「こういうのも習った」と、聞いてもいないのに訳のわからない足踏み(多分名前を知らないだけで、また長ったらしい名前を持つダンスのステップなのだろう)を鳴らして楽しそうに歌を歌いだした。何の歌かは知らないが、英語で歌っていることだけはわかる。 三日月の薄暗い夜だった。 陰気な場所である筈の墓場で、彼女は流暢な英語を歌いながら背筋をピンと伸ばして生き生きと踊る。 両腕を前に突き出しているのは、誰か架空の相手にリードしてもらっているからなのか。 強弱のついたリズム。両足をそろえて、横へ一歩踏み出す。後退する。地面を掃くように歩いて、コンパスのようにくるくると回る。 歌う、歌う。歌う。 葉佩の声は深みがあって聞き心地がいい。何処か郷愁的な憂いがあって、それでいてエネルギッシュな低音。それに合わせて見事な足使いで踊る。 知らず見惚れていると、葉佩はうっすらと笑んで両手を差し出した。 ここまでおいでと、そう誘われているようだった。 「踊ろう!」 三日月の薄暗い夜だった。 陰気な場所である筈の墓場で、それでも二人は僅かな月明かりを頼って踊り明かした。 |