相合傘


天気予報で注意されていた天気は、その通り昼が過ぎてから雨を落としてきた。
ばたばたばたばたと、生徒の喧騒に紛れて聞こえる雨音は一度気にすると耳から離れない。
湿って重くなった空気に悪態を吐きつつ、着いた玄関で夷澤は思わず足を止めた。
一人の生徒が、こちらに背を向けて入り口に背もたれている。
推測される身長、髪型、制服の着こなし、そして雰囲気。
何をとっても、それは夷澤のよく知っている人物に他ならなかった。
彼女は灰色の空を眺めたまま、何を考えているのか、何をしているのか、その場から動こうとしない。立っている位置は、大粒の雨が届かないギリギリの場所。
ふと、こちらに背を向けたままため息をついて左手の時計に目をやった。
もしかして。
夷澤は片手に持っている傘に目をやった。大粒の雨は、一向に止む気配がない。
走って帰るには雨の勢いが強すぎる。
葉佩は相変わらず屋根の下で立ちすくんでいる。
一瞬思い浮かぶのは、寮までの帰り道を二人で仲良く、一つの傘に入って帰る光景。
馬鹿馬鹿しい!何考えてるんだ、俺は!
しばし(内心かなりの葛藤があったが)(だって恥ずかしいじゃないか!)悩んだ後、夷澤は思い切って声をかけた。

「あのっ、九耀さ……!」
「待たせたな。九ちゃん」

すい、と夷澤の横をすり抜ける一つの影。ぐしゃぐしゃと落ち着きのない、天然パーマの男。
男が手にした傘を開くと、丁度いい「偶然」で夷澤の姿が葉佩からは見えなくなった。
「甲太郎、遅いー。何時間待たせる気ですか、貴方は!」
「そんなに待たせてないだろうが。一々大げさなんだ、お前は」
「だって見てよホラ、もう30分も待たされてたんですけど俺。どうして甲太郎は雛先生に怒られるのが好きかなあ」
「好きじゃねえよ」
「おかげで傘のない俺はずっとここで待ちぼうけ」
「待った甲斐はあっただろう?ほら、もっとこっち来い。濡れるぞ」

皆守が葉佩の肩に手を伸ばす。葉佩はそれに抗わない。これ以上ないほど自然な仕草で、二人は校舎を後にした。





「……あれ、夷澤くんまだいたの?確か、今日は早く帰るって言ってなかった?」
「うるさい黙れ」