音楽室から


「僕の手は、普通の人より長いから。
……少し、恥ずかしいから。あまり、見ないでくれるかな」とその人は呟いた。

「俺の手は、ここ数年銃やナイフばっかり持ってたからさ。
手が変な形に厚くなってんの。ちょっと堅気にゃあ見えないよね」とその人は笑った。





「お前の手は、ピアノを上手に弾くよな。バスケもとても格好よかった。
何かを生み出すことができる手って、偉いよね」とその人は手を重ねた。

「君の手は、暗闇にいた僕を引き上げてくれた。
誰かを救うことができる、優しくて綺麗な手だよ」とその人はぎこちなく微笑んだ。

 

 

 

 

 

そして夜の某寮室


部屋に流れ出す、40和音の短いループ曲。
着信表示に映し出される見慣れた名前。
いつものことだというのに、何となくじっと見つめてしまう。しかし見つめているだけではいつか切れてしまうので、できるだけ早く取ることを心がけている。
「……はい」
『あ、鎌治?俺だけど』
黒電話じゃないのだから、もちろん表示を見てわかっている。
それは向こうも同じだが、それでも、まず自分と相手を確認するのが、くせと言うほどでもない、葉佩の電話の仕方だった。雑談もあまりせず、用件のみを手短に伝える至ってシンプルなものだ。
話の内容はいつもの通り。遺跡に潜るらしく、そのお誘い。
多分クエストの仕事だろう。
当たりをつけながら取手は二つ返事で頷き、二、三言葉を交わして携帯を切る。
誘いといっても、近所のコンビにに行くような軽いものではない。
そうとわかっていても、部屋に鍵をかけ暗い寮の廊下を歩く足取りは何故こんなにも軽いのか。
葉佩の役に立つことができるなら、多少の苦は苦にならない。多少という問題ではないのだが、取手にとってその程度の問題だということだ。

あの人のために、僕は何ができるだろう。どこまで力になれるのだろう。
最近そんなことばかり考えている始末で、来るのが早すぎると先に墓場で待っていた葉佩に笑われてしまった。
これからやってくるもう一人を、二人であと10分は待っていなければならない。