屋上から


授業中というのに屋上への扉が開かれたことに反応し、うっすらと瞳を開けば、よくよく見知った人物が扉を閉じてちょうどこちらに歩いてくるところだった。

「よお。珍しいな、お前が授業サボるなんて」
「ふふふー。今日はちょっと特別」
「ほお?」

笑いながら皆守の隣に腰を下ろすと、抱えてきたバッグから何かを探し出す。
出てきたのは携帯型のゲーム機。正直、かなり意外だった。

「……お前、ゲームやってたんだな」
「実はこれが初めてなんだけどね、これが嵌る嵌る。止まんないの」

カチリと音を立てて電源を入れれば、皆守が予想していた最近の洗練されたものよりチープな音楽が流れてくる。
すっかり慣れた動作でゲーム機をいじりだす葉佩。聞いてもいないのに説明なんてし始めた。

「今はね、スフィンクスに今まで出した問題をもっかい確かめさせられてるとこなんだけど、問題の答えメモ取ってなかったからまーた一番最初っから戻んないといけなくってさ。メンドイんだわこれが。ゲームって案外面倒なものなんだねー」

面倒ならやるな、と突っ込むにはあまりにも楽しそうな笑顔だった。

「……勝手にしてくれ」

何だかこっちが面倒くさくなって、結局ため息をつくだけにとどめる。さすがに聞こえたのか、葉佩が画面から顔を上げて、どちらかといえば少し申し訳なさそうな顔をして見せた。

「うるさいなら、音消すけど」
「構わねえよ。お前が騒がしいのはいつものことだ」
「失礼な。俺はいつだって静かな好青年ですよー」

それきり二人とも黙り込んだ。皆守は眠くて。葉佩はゲームに夢中で。
気まずい沈黙ではないし、いつものことだから、皆守はやはり黙ってアロマを吸う。
広い空と、流れる雲と、緩やかな風に流れるラベンダーの香り。
今日はそれに加えて、隣から聞こえるゲームの電子音。不快でないことに内心驚く。


……まあ、それもいいかと。適当にそう打ち切って皆守は昼寝を再開した。