神鳳と皆守の全然仲良くない話
(私の脳内では何故かこの二人の仲が宜しくなくて大変申し訳ない)


「秘めた思い、か……どんなに辛いものなんでしょうね」

皆守甲太郎は何か見てはいけないものを見てしまったような顔をして、つまり心底嫌そうに恐る恐る神鳳へ振り向いた。

「蛆でも沸いたか。頭に」
「一日の四半分程度しか寝てないんだから、沸くほど暇な生活は送っていませんよ」
「どういう意味だ」
「おや、少し直接的過ぎましたか」

口元に手をやってひっそりと笑う。
その古臭い仕草が、しかし神鳳にはよく似合っていて皆守は無性に居心地の悪さを感じた。
そもそも何故この男がこんな場所にいるのか、皆守には理解できない。
屋上のフェンスに軽く手をかけて、空を見上げながら神鳳は穏やかな声で話す。

「九耀さん。彼女は不思議な人ですね」
「…………」
「わがままで強引で自分勝手で、おまけに嘘つきときている。
人間の美徳とされる要素は全く感じられない、酷い人だ」

神鳳の言葉は、穏やかで静かだけれど酷く鋭利で真直ぐすぎた。
皆守は苛と髪をかき混ぜながら、口の中で小さく悪態をつく。
葉佩のことを、皆守もそう考えたことは一度や二度ではない。
けれど神鳳にそこまで言われる筋合いはないと、酷く気分が悪かった。
アロマに火をつけ、荒っぽい仕草で口に咥える。

「……神鳳。お前がアイツの何を知ってるか知らないが、嫌いなら話さなければいいだろう」

神鳳は、彼は睨まれていることに気づいているのだろうか?
いつもと変わらない、常のような笑みを浮かべたままで

「僕は嫌いだなんて一言も言っていませんよ。
それに、あれほどの欠点を抱えていても彼女はこの學園で大勢の人に慕われている人気者だ」

貴方もその一人なのでしょう?
暗にそう続けられた気がして、よっぽど蹴り飛ばしてやろうかと考えた。

「……何か勘違いしているみたいだが、俺はアイツが《転校生》だから一緒にいるだけだ。
お前が考えてるようなことは全くない」
「おや、貴方は関係ないと」
「当たり前だ」
「それはよかった。いえね、実は僕も狙っているんですよ。九耀さんのことを」
「んなっ!?」

思わず調子ハズレな声を上げてアロマパイプをこぼした皆守に、とうとう神鳳は声を上げて笑う。

「ああ、酷い顔だ!」
「……っテメ、何考えてやがる……!」

神鳳の襟首を掴む皆守へ、神鳳は笑みを返す。
余裕すら漂う態度が心底気に食わなかった。向こうもそう思っているだろうが、だからどうしたというのか。

「ねえ、皆守君。口には出さない、秘めた思い。それはそれで美しいものなのでしょう。
打ち明けるも隠すも個人の自由。他人の事情に口を挟む気はありません」

けれどね、皆守君。
細めていた眼は少しだけ開かれていて、その鋭い虹彩から皆守は視線を逸らさない。
逸らしてはいけないのだとわかっていた。


「見ている方は不快で仕方がないんですよ」


これは警告すら通り越しているのだから。