12月24日 


「クリスマスには奇跡が起きる」

業と揺らめく炎の中、ふと思いついたように何気なく零された言葉。

「聞いたことない?そういうジンクス」
「くだらんな。そのような都合の良い奇跡など存在しない」

返された言葉は、予想通りだったのだろうか。
手を口元にやった彼女から、くくっと笑いを堪える音が聞こえる。
何故、彼女はここまで余裕があるのだろう。全く気負いのない姿に皆守は焦りさえ覚えた。
その姿はまだ見えていない、それでも背筋がぞくりと総毛立つ様な《陰》の氣は刻々と近づいてきているというのに。

「そうだね。起きることがわかってる奇跡なんて面白くない」
「おい、こーちゃん。何を考えているかは知らんが……」
「似てるよ、お前。アイツの方があたし好みだけど」

皆守を手で制して、緋勇が顔を上げる。

「似てるっていっても、あまり名誉なことじゃないけどさ。最低な男だったから」

その顔は想像通り笑っていた。これから起こることを知っているのかいないのか、それは楽しそうに。嬉しそうに。


意味はわからない。知らない。
ただ、その瞬間彼女がこの世界で一番怖ろしい「何か」に見えた。


両手にはめた手甲を愛しげに撫ぜ、そして右手を上げる。彼女が無手で戦う姿を皆守が見るのは、初めてというわけじゃないのに。

「来いよ。邪魔したいんだろ?あたしらの」

手のひらを上にし、指を軽く曲げて挑発するその仕草に気負いはない。
だというのに、彼女から受ける威圧感の恐ろしさはなんだろう。
緋勇が笑っている。口を笑みの形に歪めて、自分の感情を隠していない。
じりじりと、足が僅かに後ろへ下がっていることに気づいた。
近づく《陰》の氣よりも何よりも、今は彼女の存在に汗が流れる。

「墓守だろうが神様だろうが、俺は目の前に立つ奴を全部ぶっ飛ばすだけだけさ」

この女から感じることの出来るこの威圧感は、湧き上がる《氣》の凄まじさは一体何だ。
白岐が小さな声でその名前を呟いた。


「黄龍……」


緋勇は笑って否定しない。

「今日はクリスマス・イブだ」

どこか歌うように、流れるように言の葉を紡ぐ。


「奇跡を見せてやる」


その言葉と同時に、黄龍は動いた。