12月25日 


「寒くないの、甲太郎」
「別に」

音もなく地面に落ちてうっすらと積もっていく雪の雨。
傷口に堪えるだろうと葉佩は危惧するが(実際今自分が辛い)、皆守は特に気にしている風には見えない。
葉佩がここに来るのをわかっていたのだろうか。突然の呼び声に驚くこともなく、ゆるりと肩越しに振り返ると彼は無言で己の隣を指差した。
座れと、言いたいらしい。
ちゃんと口で言えよ。内心ツッコミをいれながらも葉佩は横に座る。

「皆が探してる。皆一緒じゃないとケーキが切れないって」

降りかかる雪が冷たい。
少しでも寒さをしのごうと、身体を抱きしめて背筋を軽く丸める。それに気づいた皆守の左腕が伸びて葉佩の左肩に乗せられた。軽く抱き寄せられたその形は、確かにさっきよりは温かいが根本的な解決にはなっていないと葉佩は非難の声を上げる。
彼が大人しく寮に戻って待っている皆とケーキを食べなければ、パーティーを始めることができないのだ。

「甲太郎」
「なあ、何で俺らはあいつらとケーキを食わにゃいけないんだ?クリスマスだからってわざわざ人集めて騒がないといけないという法則があるわけでもあるまいし」
「馬鹿め。食わなきゃいけない、じゃなくて食べることが出来ると言えよ。そりゃお前にとっちゃ面倒だろうさ。そう思い込んでるんだから。実際に経験してみないと、それが本当かどうかわからないってことくらい知ってるくせに」
「……ったく」

至極面倒くさそうに、どうでもよさそうに呟く。
その態度がどうにも気に食わない。葉佩が更に言葉を続けようとすると、ぐしゃぐしゃと彼に髪をかき混ぜられて邪魔をされた。

「行くか、九ちゃん」

皆守が先に立ち上がって右腕を差し出す。
葉佩が右腕を伸ばすと、予想よりもずっとしっかり握り返されて強く引き上げられた。とん、と反動で軽く皆守の胸にぶつかって抱き合う形になる。
握った右手はそのままに、皆守は無言で葉佩の肩へ降り積もった雪を払い落とす。
その動作が余りにも優しいものだから、嬉しいと思うよりただ驚いてしまって葉佩は眼を見開いた。今日の皆守は何かが違う。

「……性格変わった?」
「かもな」

皆守が小さく笑う。

「というか、吹っ切れた」

皆守の顔は傷だらけだったが、それが余計に精悍さを醸し出していて不覚にも葉佩は顔を赤くしてしまった。