光差す庭


薄手のカーテンから白い光が差し込む。
その眩しさは瞼越しに気づいていたけれど、もう少しこうしていたかった。
起こさないよう、慎重に腕を動かしてそっと抱きしめる。
自分のものじゃない、暖かい体温は本当に気持ちが良かった。
シーツの上を流れる、さらさらと柔らかい黒髪がくすぐったい。
他の誰でもない、僕の隣で眠ってくれている、君が傍にいてくれるという事実。
幸せだった。

このまま時間が止まればいいと思う。
そうすれば、僕は(僕達は?)ずっと幸せでいられるのに。

うとうとと微睡んでいると、腕が動かされる気配がして目が覚めた。
閉じていた目を開くと、ベッドに腰掛けているくっちゃんの後ろ姿。
……ああ、もう起きちゃったんだ。
まだ眠っていてもいいのに。
離れた温もりを残念に思っていると、くっちゃんは眠気を飛ばすように大きく伸びをした。


すらりと伸びた細い右腕。
付け根に走る赤い痕に、ずきりと胸が痛む。

君が傷つく必要なんか無かったのに。


立ち上がろうと、腰を浮かしたくっちゃんの腕を。気がついたら僕は掴んでいた。
驚いたように、目を丸くして振り向くくっちゃん。目が合うと、申し訳なさそうに僕に微笑んだ。

「起こしちゃった?」

寝起き独特の、囁くように掠れた甘い声だった。
くっちゃんの綺麗な指が、僕の髪を撫ぜる。それがどうしようもないくらい優しい仕草だったから、何故だか無性に安心したけれど、同時にすごく不安だった。


だって彼女は、誰にだって優しい。

ねえ、くっちゃん。
君がバディを庇って怪我をしたと聞いたとき、僕は本当に胸が焼けそうだったんだ。


「鎌治?」

腕を掴んだきり、放そうとしない僕にくっちゃんは不思議そうに首を傾げる。

「ひどい顔してる」

音も無くベッドが揺れて、僕の頬にくっちゃんの左手が触れた。
くっちゃんの手は、温かかった。温かくて、柔らかくて、優しかった。
だから、放っておくことが出来なかったんだろう。仲間の危機を。
考えただけで、じりじりと体中が痛い。
縋るようにくっちゃんを抱きしめて胸に顔をうずめた。



……放っておいてよかったのに。

小鳥の声が聞こえるほど静かな空間。
木漏れ日が差す明るくて大きな部屋。
手入れの行き届いたグランドピアノ。
どれもこれも素晴らしいものだけど、君がいなければ、何の意味も無い。
僕がピアノを弾く、その傍で笑っていてくれれば他には何も要らないのに。
君はまず、他の誰よりも自分の心配をするべきなんだよ。



「甘えん坊め」

抱きしめる腕に、ぎゅっと力を込める。
くすりと笑って、くっちゃんは僕を抱きしめ返してくれた。

彼女は、きっと僕の本音を知らない。