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客の求めるままに棚から商品を取り出し、袋に詰め、一言二言添えながら渡す。その都度上がる明るい笑い声。
従兄弟の政宗と違って、人と接することは成実にとって全く苦ではなかった。
奥から出てきた店員の一人から耳打ちをされて、成実は一瞬ぎょっと目を見開く。
手にしていた袋の口を鮮やかにひねって客に押し付けるように渡すと、そのままカウンターを飛び出した。
「政宗!久し振り!」
店の階段を上り、窓辺に立っていた政宗に文字通り飛びつく。
「よお、成実」
「聞いたぜ、ベランダから降りて来たって!とうとう鳥になったか?」
「んな訳ねえだろ」
親しいものにしか見せない、優しい笑い方だ。
しかし、今の政宗はいつもとちがってどこかぼんやりとしている。まるで夢でも見ているような頼りなさだ。
成実は眉根を寄せて、僅かに年上の従兄弟をまじまじと見つめる。
店の奥まで引っ張り込んで、丸椅子を二脚用意すると二人で座った。ケーキの詰まった木箱が積み重ねられた中に、ちょっとした空間ができているのだ。そこで路地裏で起こった一部始終を聞くと、盛大に宙を仰ぐ。
「それさあ、どっからどう見ても魔法使いじゃねえの」
「……だよなあ」
「だよなあ、じゃねえよ!その魔法使いが小太郎だったら、今頃政宗は心臓を食べられてたんだぞ!」
「あのなあ成実、俺は男だぜ?」
どこまでも心配性な従兄弟だと思いながら、政宗は噛み砕くようにゆっくりと諭す。
自嘲するでもなく、肩を竦めて笑って見せた。
「それに、美人でもないしな」
「またそういう!」
どこまでも自分を低く見る政宗の考え方が、成実は大嫌いだった。
思わず椅子から立ち上がり、びしっと政宗を指さし睨みつける。
「あのなあ、世の中物騒なんだよ!荒地の魔法使いまでうろついてるって噂なんだ!ちったぁ自分の身を心配しろ!」
「へいへい」
「ったく……」
政宗は全く応えない。額に手をやって、絶望的に空を仰ぐ。
「……なあ政宗、本当に一生あの店にいるつもりなのか?」
「親父が大事にしてた店だし……それに、俺、長男だしな」
「そんなん関係ねえだろ!俺が言いたいのは!本当に、帽子屋になりたいのかってことだよ」
即答することはできなかった。
帽子や服を作ることは得意だし好きだったが、一生帽子屋でいいとまでは言えなかったからだ。
けれど、帽子屋よりずっと楽しいことをしたいと思っても今の政宗には他にやりたいことがない。
政宗は父親が大好きだったし、父親の店を継ぐものだと最初から諦めていた。小十郎もそれを望んでいる。他の道なんて考えたこともなかったのだ。どうしてあの店を離れることができよう。
成実が心から政宗を心配してくれているのは分かっている。
「頼むから、もっと自分を大切にしてくれ」
わかるだけに心が苦しい。
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