―――――



「君は、自分が長男だということを随分免罪符にしているみたいだけど」

閉店時間はとっくに過ぎ、戸じまりの鍵もかけたというのにその客は政宗の前に現れた。
白テンの肩かけを優雅に纏い、純白に紫の線が入った衣装をすらりと着こなした綺麗な青年だ。
紫色の仮面越しに、彼は政宗を笑う。嘲りの笑みに。
「安っぽい店に、安っぽい帽子。君もずいぶんと安っぽい人間みたいだねえ?」
「……生憎だが、ここはしがない下町の帽子屋でね。アンタが気に入るような代物はここにはねえよ」
かっとなれば客を失う。
商売の常識だが、今の政宗にそんなこと関係なかった。成実との会話ですっかり疲れていたのだ。
客の横を通り過ぎ、勢いよく入口の扉を開く。せいぜい慇懃無礼に政宗は銀髪の青年にお辞儀をしてみせる。
「どうぞお引き取り下さいませ、お客様?」
「……ふふ、君は本当にいい度胸をしているよ。荒地の魔法使いに張り合おうなんて」
「……荒れ地の?」
言葉の意味に気付いた時にはもう遅い。
とっさに逃げようにも、入り口はあの帽子を被った黒いゴム人間が塞いでいて通れない。
店内を吹き荒れる黒い嵐に、思わず政宗は顔を腕で防いだ。
「その呪いは人には話せないからね」
顔をあげたときには、既に荒地の魔法使いは入り口に立っている。
にこりと目を細め、親しみと嘲りを含んだ声を残して彼は去って行った。


「小太郎君によろしく」


荒地の魔法使いが立ち去ったとき、重く鳴り響く扉のベルはまるで葬式の鐘のようだった。





















→next