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「港町!」

すぐ近くで聞こえた男の声に、政宗は目を覚ました。いつの間にか眠っていたらしい。
もしかしたら、今までのことは全て夢だったんじゃないだろうか。期待しながら体を起こすが、目の前には灰だらけの暖炉がある。自分の身体は女のままだ。
全く、なんで自分がこんな目に合わなければいけないのか!
「ずかずかと店に入ってきたと思ったら、言いたいことだけ言い捨てした挙句人に呪いをかけやがって!絶対思い知らせてやる!」
どん、と腹いせに暖炉を蹴ると薪の間から小さく炎が上がって佐助が顔を出した。
「おはようさん、約束は忘れてないだろうね?」
「わーってるよ!」
悪態をつきながらも、それが小声なのは近くで他の人間の声がするからだ。
政宗が入ってきた扉の方から、誰かが会話しているらしい声が聞こえる。

「国王陛下からの招請状です。いよいよ戦争ですぞ!」
「魔法使いもまじない師も、魔女ですら皆国家に協力するようにとの思し召しです」
「必ず宮殿へ参上されますよう」
「必ず、必ず出頭するように!」

「……嫌だねえ、戦争なんて」
ぱたんと扉を閉じる音が聞こえると、一人の少女が顔を出した。
銀色の髪の毛を左右に編んだまだ幼い女の子で、魔法使いの家にはあまり似合っていない。
まじまじと政宗の顔を見つめると、右目を隠す眼帯にちょっと怯む。本当に普通の女の子だった。
「誰だべ、お前さん」
「政宗ってんだ。荒地で佐助が入れたんだよ」
「荒地から?まさか魔女じゃないだろうべな」
「魔女なら入れるもんかい」
「へえー、そんならお客さんか?」
「NO、ちょっと違う」
「そうそう違うんだよ、ほら何だっけ、ねえ?」
「ねえ?ってなんだ、ねえってこの野郎」
「なんだべ、二人とも?」
「…………あー、掃除婦とか、かな?」
口実を考える前に寝てしまったせいだ。
佐助と意味もなく目配せあいながら、必死でこの城に留まる口実を考える。
歯切れ悪く返す政宗を少女は不思議そうに首をかしげて見ていたが、彼女は細かいことを気にしない性格のようだった。
もしかしたら、汚れきった城内を彼女も気にしていたのかもしれない。なにせ床石は汚れて油だらけだし、暖炉は灰の山なのだ。
にこっと、ひまわりの花が咲くように明るい笑顔を浮かべて政宗を見上げた。

「おらはいつきってんだ。よろしくな」











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