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政宗が転がり込んだ家は一見ただのボロ屋だったが、確かに魔法使いの家だった。 扉についている取っ手を動かし、4色の色を選ぶことでそれぞれの場所に行くことができるのだ。 呼び鈴が鳴らされるたび、佐助が場所を教えていつきが色を選び扉を開く。 青は港町、赤は王都、緑は荒れ地。 もう一つの黒い色が運ぶ場所はわからない。小太郎しか知らないのだという。 「朝ごはんにしねえべか?パンとチーズしかねえけど」 「って、おいおい、こっちにはベーコンがあるじゃねえか。卵もこんなに」 「小太郎がいないと、火は使えねえんだ」 「ふぅん?」 政宗は壁にかかっていたフライパンを取ると、上にベーコンをどさっとのせて暖炉の前まで運ぶ。 暖炉には一年中燃えていそうな火の悪魔がいるのだ。 「無理だべ。佐助は小太郎のいうことしか聞かねえ」 「その通り!料理なんかやんないよ」 「頭を下げな、佐助」 佐助の言葉を無視して、頭にフライパンをのせる。 佐助がそれを拒絶するので自然押し付けるような形となり、ぎりぎりと力の押し合いになった。 「俺は、誰の、指図もっ!受けないね!」 「言うこときかないと、水をかけちまうぜぇ?そ、れ、と、も……」 体重を乗せて佐助を押しつぶそうとしながら、政宗はにやりと笑う。 口の端を吊り上げ左目を細めた政宗の顔は、女になってもそこらの悪魔より凶悪だ。 「取引のことを小太郎にばらしてやろうか?」 「……チェッ、チェッ!こんな跳ねっ返りいれるんじゃなかった!」 「さあ、どうする!?」 もう一度叩きつけると、ぶわっとオレンジ色の炎が燃えて輪になった。 それきり佐助は大人しくフライパンをのせているので、政宗は上機嫌でベーコンを炒め始める。 「そう、いい子だ……」 「ベーコンなんか焦げちまえ」 「馬鹿じゃねえんだから、卵割るまでじっとしてろよ」 じゅうじゅうと気持ちのいい音を立ててベーコンが焼けていく。 随分と久しぶりの匂いにお腹を空かせながら、いつきは茫然と呟いた。 「佐助が言うことを聞いた……」 「飲み物が欲しいな。おい、ポットはあるか?」 「うん!」 「どーせ、それも俺様に温めさせるつもりなんだろ……」
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