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綺麗に晴れ渡ったうららかな午後。
政宗は佐助に頼んで動く城を草原の水辺に止めてもらうと、城中の洗濯物を干していく。
青い空の下、はためく純白の洗濯物は見ているだけで気持ちがいい。
洗濯物を吊るす紐を巻きつけ、一本足でそこかしこを跳ねまわっているのはカブ頭の案山子だ。
あれでお別れだと思っていたのだが、結局ここまで付いてきてしまった。
「洗濯物が気に入ったみたいだべな」
「おかげで、早く乾くだろう」
湖のほとりにテーブルと椅子を置いて、政宗といつきは午後のティータイムをしている。
灰色やピンク色のパステルカラー、赤や緑の様々な原色でできたへどろやぬるぬる。流しにたまったそれらを掃除するのに昨日丸一日かかった。
おかげで台所はすっかり綺麗になり、遅めの昼食もとびきり美味しい紅茶も淹れることができたのだ。
皮肉なものだと思う。
人と関わりたくないから、一人でも生きていけるよう手に職だけでなく家事も身につけた。
掃除洗濯料理に裁縫、おかげで、小太郎の城に住む口実を作ることができたようなものだ。女として違和感なく日々の生活を送ることもできている。
「政宗のようなお姉さんができて、おら嬉しいだ!」
いつきに満面の笑顔でそう言われた時、政宗は泣きたくなった。
実は男じゃないのか、と一度も疑われたことがないのが悲しいのだ。
一人前の男として、帽子屋のあとを継ぐ長男として政宗は生きてきたつもりだったのに。
自分が男だと知った時のいつきの反応が恐ろしい。
「なあ政宗。カブって、悪魔の一族かもしれねえだな。佐助が怒らんもの」
「実は死神だったりしてな」
「死神?」
「冗談だよ。ほら、食え」
きょとん、と首を傾げるいつきに政宗は薄く微笑んでハムを勧める。
いっそ死神が来た方が幸せだろうと、自分が女にされたと知ったとき政宗は考えたものだ。
今はこうして綺麗な湖のほとりでのんびりと寛ぐことができている。片隅のどこかで怯えながら。
「……こんなところまで来るとは思わなかった」
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