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――――― 暖炉で佐助が火を灯しているだけが光源の、闇に染まった薄暗い深夜。 黒い面の扉から城に帰って来た小太郎は椅子に倒れると、乱雑な動作で二本の足を炉囲いの上にのせ、頭を椅子にのせた。 はあ、と疲れ切った息が口から洩れる。 薪の下から顔を出した佐助が淡々と感想を呟いた。 「臭い。生き物と鉄の焼けるにおいだ」 小太郎の返事はない。まずは乱れた息を整えることに必死なのだ。 「……っ」 しばらくは肩で息をしているだけだったが、苦しそうにうめき声を上げた。 体中が引き伸ばされ、掻き混ぜられて、押し潰されるような痛み。それに耐えなければ人間に戻ることは出来ない。 ずるり、ずるりと黒い羽が波を引くように下がっていく。 鋭く尖った爪が徐々に丸みを帯び、元の色へ戻っていく。 体中に張り付いた鱗がすっかり皮膚の下に消えると、そこでようやく小太郎は一心地ついたようだった。 「あんまり飛ぶと、戻れなくなるぜ」 忠告めいた言葉だが、小太郎がそれを聞くとは佐助自身あまり信じていなかった。 オレンジ色の火でできた細い腕を伸ばし、暖炉の脇に置かれた薪を掴んで抱え込む。 佐助が空腹にならないようにと、政宗が毎晩傍らに薪を用意してくれているのだ。 口は悪いし乱暴だが、いい人間だと佐助は思う。政宗のことは嫌いじゃない。 小太郎は椅子に力なくもたれかかったまま、ついさっき見てきたことを思い出している。 ひどい戦争だった。 南の海から北の国境まで火の海だった。 それに、飛行軍艦から飛び出た小太郎の同業者。 「……そいつら、あとで泣くことになるな」 小太郎の記憶を読んで、佐助はパチパチと意地悪そうに炎を燃やした。 「まず人間には戻れないよ」 平気だろう。 すぐに泣くことも忘れる。 口元を歪めて、小太郎も笑った。 「アンタも国王に呼び出されてるんだろ?どうすんの?」 それには答えず、小太郎は暖炉の側を離れる。 階段下の空間に折りたたみ式のベッドを置いて、そこで政宗が眠っているのだ。 カーテンをそっと開いて覗きこむと、静かな寝息を立てて政宗が眠っていた。 「…………」 しばらく政宗の寝顔を見守ると、小太郎は無言でその場を離れた。 →next