―――――



王宮へと続く、王都の表通り。
足元をじゃれついて離れない一匹の犬を、政宗は困ったように見降ろしている。
姿を変えて付いていく、と彼は言っていた。
言っていたが、もしや……
「……小太郎?」
「ワン!」
うわ、マジですか。
何で赤い鉢巻きを巻いた風変わりな犬に化けようなんて思ったのだろう。
しかも、さっき政宗は小太郎に怒鳴りつけてやったというのに。
タフなのか堪えていないのか、それとも政宗の言葉なんて少しも気にしていないのか。
一番最後だったら傷つくな……と落ち込んでいる政宗の隣に一台の車が並んだ。黒のレースでできたカーテンをめくり、一人の青年が政宗に声をかける。
「久しぶりだね。君、あの時の帽子屋だろう?」
「テメエ……!」
銀色の髪に、紫のマスク。
政宗は荒地の魔法使いに飛びかかろうとしたが、ぞろっと伸びたドレスが邪魔な上、例の黒いゴム人間に阻まれて近寄ることができない。
ぎりぎりと睨みあげると、荒地の魔法使いは面白そうに笑った。
「小太郎に手紙を届けてくれてありがとう。彼は元気かい?」
「布団被って震えてるよ。アンタのおかげで、俺はあの城の掃除婦だ」
「それはよかった」
車の横を歩きながら、ちら、と下を見る。
赤い鉢巻きを巻いた犬は、上手く荒地の魔法使いからは見えないように隠れながら歩いているようだ。
「ところで、君は何故王宮へ向かっているのかな」
「就職活動!あんな奴のところ、もううんざりだね」
口実は嘘だが、本心なので偽る必要もない。
忌々しげに吐き捨てる政宗を、荒地の魔法使いは興味深く見降ろしている。
「お前こそ何の用だよ」
「僕は王様に呼ばれてるのさ。元就君もいよいよ、僕たちの力が必要になったみたいでね」
「僕たち?」
「それは、君が知る必要はない」
「なんで小太郎を狙ってるんだ」
「侮辱されたからさ。あの男、よりにもよって秀吉にあんな暴言……!」
ばき、と車の中で何かを折る音がした。
優雅を気取っている荒地の魔法使いの顔が醜く歪んでいるところを見ると、余程手酷い侮辱の仕方をしたようだ。
足元の犬を見降ろすが、彼は素知らぬ顔で歩いている。
「……もう、俺は関係ないだろ。呪いを解いてくれよ」
「それは無理な相談だ。僕は、呪いはかけられるけど解けない魔法使いなのでね」
「なっ!」
「それじゃあ、お先に」
「ちょっと待てよ、おい、待てって!このくそったれの変態野郎!」
急いで追いかけるが、人の足では車に追いつけるはずもない。
みるみる間に距離を離され、趣味の悪い紫色の車は政宗の視界から消えてなくなった。

「小太郎!テメエがいなけりゃあの気取った顔を踏みつぶしてやったのに!」











→next