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「お前……!」

からからと車椅子に乗せられて現れた男を見て、政宗は声を呑んだ。
全面にガラスを嵌めこんだ陽光暖かな植物園の中では、彼はさらに惨めな存在だった。
一瞬死んでいるんじゃないかと政宗は息を呑んだが、車椅子に座らされた荒地の魔法使いはまだ呼吸をしていた。
つい先ほど政宗と別れたばかりだというのに、いったい何があったというのか見るも無残にやつれきった顔。炎のように強い眼光を放っていた彼の目は虚ろで、何もない床をじっと見つめているだけだった。
まるで別人になってしまった荒地の魔法使いを見て、元就は鼻を鳴らした。この国の王室付き魔法使いで、小太郎の魔法の師匠である男。
「ふん、貴様が残ったか。半兵衛」
「……半兵衛?」
「この男の名だ。これでも昔はそれなりの魔法使いだったのだが、何を思ったか悪魔と取引をした挙句身も心も悪魔に食い尽くされた」
元就の冷ややかな声に、荒地の魔法使い……半兵衛が小さく震える。
しかし何かを反論しようにも、そんな体力はどこにも残っていないらしい。魔力を奪われた魔法使いを見下す元就の顔も冷え切っていた。
「アレも同じだ。小太郎も悪魔に心を奪われ、我のもとを去った」
「……っ」
「このままではそこにいる者と同じ末路を辿ることになる」
元就は政宗の眼をじっと睨めつける。
力強く他者を圧迫する声は、確かに軍事国家の権力者であることを証明していた。


「今、王国はいかがわしい魔法使いや魔女を野放しにすることはできぬ。小太郎がここへ来て王国のために尽くすなら、悪魔と手を切る方法を教えよう。

来ないなら力を奪い取る。

その男のようにだ」



「……小太郎がここに来たがらない理由がわかりましたよ、Mr.元就」

元就は、彼はその気になれば小太郎などすぐに自分の意のままにすることができると思っているんだろうか。
せいぜい育ちの良いお嬢様らしく、政宗はお上品に微笑んだ。
上から押し付けられたら、それを跳ね返したくなるのが政宗の性格だった。
「あの意気地なしの臆病者が、アンタみてぇなおっかねえ人間に近付きたがるものか」
「ほう、随分とアレに詳しいようだな」
す、と目を細めて元就は冷笑を浮かべる。
「アレに姉がいるなど、師匠である我も聞いたことがないというのに。そのような目立つ為りをしているならば、なおさらのこと」
「何年も顔を見ていない姉を身代わりにする男ですから」
眼帯で隠した右目を面白そうに見つめる切れ長の目を、左目で睨み返す。
二人の気迫に、元就の足元で寝ていた幸村(あの赤い鉢巻きを巻いた犬は、何と小太郎でなく元就の使い犬だった。goddamn!)がぞわりと総毛だたせる。
しばらく無言で睨みあった後、言い聞かせるようにゆっくりと言葉を発す。
「小太郎は、来ない」
「いいや、来る」



「我が采配に間違いはない」





















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