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「元就ぃ!いよいよ決戦だぞ!今度こそ叩きのめしてやる!」
将軍からの報告書を意気揚々とぶん回しながら、元親は勢いよく植物園の扉を開いた。
ふかふかの高級感あふれ過ぎる椅子の上で優雅に足を組んでいる元就のもとまで歩み寄るが、彼の近くに佇んでいる男の顔を見て元親は右目を見開く。
軍帽から白銀の髪、靴の爪先から左目の眼帯まで目の前の男は自分とまったく同じ姿だったのだ。
「俺の影武者か?よくできてるじゃねえか」
「違うが、面倒だからそういうことにしといてやろう。貴様は引っ込んでいろ」
「俺、王様なんですけど」
「それが?」
「……何でもありませーん」
じろ、と一睨みされこの王国で一番偉い人はすごすごと帰って行った。
元就は不快気に鼻を鳴らすと、今度は目の前にいるもう一人の元親を見据える。元親の隣にいる政宗は、未だ困惑しきった顔で彼を見上げていた。顔色を伺おうにも、左目の眼帯のせいで政宗からは何も見えない。
「久しぶりだな、小太郎」
「先生もお元気で何よりです」
右手を胸に当て、元就に頭を下げているのは紛れもなく小太郎なのだが、その姿も声も元親のままだった。
小太郎のその姿も、声も、慇懃な態度も全てが気に食わない。
「……嘆かわしい。貴様は、未だに他人の顔を借りねば自分の意見を言うこともできぬのか」
「私が臆病者なのは、先生もご存じの筈ですが」
「黙れ!今すぐにそのみっともない顔を下げよ、虫唾が走るわ!」
眉を吊り上げた元就の怒号が、植物園を満たしていた静かな空気を引き裂く。
それでも小太郎は、顔色一つ変えず彼に頭を下げているままだ。
「……その腐った性根、どうやら我が直々に叩きなおしてやらねばならんようだな」
「誓いは守りました。先生と戦いたくはありません」
そこで言葉を区切ると、元親の顔が動いて少しだけ左に傾いた。
怪訝そうな政宗の顔が右目に映り、目が合う前に視線をそらす。
こくりと、喉が震えたように政宗には見えた。小太郎にしては随分とはっきりした主張。例え元親の声を借りていても。
「姉と、帰らせていただきます」
「逃がさんよ」
元就が口を歪めて、采配を振るう。
きらきらと光が溢れて二人を襲った。
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