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盛大にガラスの天井をぶち破り、政宗たちは文字通り植物園を飛び出した。
黒灰色の羽を仕舞い、白銀の髪が風に暴れるのを好きにさせながら小太郎は舵を握る。上空は風が強く、政宗はたなびくスカートを押さえつけるのにかなり手間取っていた。何で女はこんな無駄にひらひらした服を着れるんだ。
後部座席に乗った、半兵衛と幸村を視線だけで振り返って小太郎が苦笑する。
「あーあ、政宗は皆連れて来ちまったな」
頭上から降って来た小太郎……が元親の声と口調を使っての言葉に、政宗は盛大に舌打ちをした。全身から生やした黒灰色の羽を引っ込めても、まだ彼は仮装をやめようとしない。同じく、空を飛んでの追手に対する牽制のつもりだろうか。
確かに半兵衛は政宗が弱った体を引っ張ってここまで連れてきたが、元就の使い犬である幸村は勝手に付いてきただけだ。しかし親切に説明してやる気はない。元就ではないが、ここまで自分を隠されると政宗だっていい加減嫌になるのだ。
「……お前が来るなら、俺が来ることはなかったんだ!」
「政宗がいると思うから行けたんだ!あんな怖い人の所へ一人で行けるかよ!」
耳元を唸る風の音に負けないよう、自然声も大きくなってしまう。
握らされた舵を苛立ち紛れにぐるぐる動かしていると、心配になったのか、小太郎が背をかがめて手を伸ばした。
政宗の手を包み込むように舵を握って、方角の修正を始める。
「おかげで助かった。さっきは本当に危なかった」
「……?」
なんだ、この声。
耳元で聞こえた知らない男の声に、政宗は横を振り向いた。
この国の軍服姿のまま、赤橙色の髪をなびかせ慣れた手さばきで小太郎が方向を正している。
政宗の視線に気がつくと気まずそうに顔をしかめ、けれど蚊の泣くような本当に小さな声で政宗の耳元で囁いた。


「…………ありがとう」


政宗はしばらくぽかんと口を開いていたが、小太郎の言葉が胸に沁みこむと同時、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「お前、いい声してるじゃねえの」
左目を細め、上機嫌に笑いかけるとすぐに小太郎は顔をそむけてしまったが。
照れていると思えば可愛いものだ。
地平線の果てまで飛んで行けそうな最高の気分で、政宗はペダルを力強く踏んだ。





















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