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ぎい、とドアの開く音。
ぼたり、ぼたりと赤黒い血の足跡を残してそれはこちらに歩いて来る。
足跡は三本しか指を持っていなかった。
長くて先がナイフのように鋭い、猛禽類の爪をさらに凶悪に伸ばしたような禍々しいそれ。
ばさばさと乾いた音を立てて、黒灰色の羽が血だまりの中に落ちた。
「ああ!やばいよ、やりすぎだよ」
薪の下から顔を出した佐助が、震えた声で小太郎を見上げる。
小太郎は佐助を見返しはしない。
顔を俯かせて長い前髪で顔を完全に隠し、ばたりばたりと血を滴らせながら虚ろに歩いていく。
暖炉のそばで毛布にくるまって眠っている政宗の横を通っても、見下ろしもせずに小太郎は通り過ぎて行った。

「……?」

政宗が目を開いたのは、遠くで扉の音が閉じる音を聞いてからだ。
板張りの床にべっとりと付いた赤い足跡に、一瞬びくりと身体を竦ませる。
見覚えのある黒灰色の羽根を拾い摘み上げると、それは一瞬で散り散りに千切れ、枯れ葉が風に飛ばされるように政宗の手から消えてしまった。
ぎゅ、と左目を絞って政宗は二階を睨んだ。足跡は階段を上り二階へと続き、その先には小太郎の部屋があるからだ。

「あの、馬鹿」




















荒れ狂う風にかき消されないよう、必死に声を張り上げて政宗は叫んだ。
苦しそうに身体を縮め、うめき声をかみ殺し、必死に政宗から自分を隠そうとする姿が哀れで愛しくて仕方がなかった。



「どうすればいい!?どうすれば俺はお前にかけられた呪いを解くことができる!?」



政宗の声は、荒れ狂う風と獣の咆哮、黒灰色の羽ばたく音によって掻き消される。
獣の鳴き声は、もう遅いと泣いているようにも政宗には聞こえた。





















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