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「お前!絶対わざとやってるだろ!」
敵だか味方だか分からない軍艦から、黒いゴムのような人形がポンポンと跳ね出てきて政宗と小太郎を指さす。
キィキィと鳴いているそれの意味など、政宗にはさっぱりわからなかったが良い意味でないことだけは確信があった。
相性が悪いのだ、ああいう手合いとは。
小太郎が悪戯なんてしなければ見つかることもなかっただろうに。
もう何度目かもわからない、いつものように小太郎に腕を引っ張られて政宗は走る。ざかざかと大きな音を立てて、二人の足元で花が散っていった。
「走れ!足を動かせ!」
「うっせえ!テメエはもう少しモノを考えてから行動しろ!」
小太郎の爪は鋭く伸び、腕や手の甲からは無数の棘が飛び出ていた。肌が浅黒くなり、背中から羽が生える。ふかふかの体毛が気持ちよさそうだという現実逃避をする暇はない。
追ってくる黒いゴム人形。
手に手を取って逃げる政宗と小太郎。

空中を歩くのは、これで二度目だ。

歩くといっても、羽の生えたゴム人形から必死で逃げているから優雅でも何でもなかったが。
両手首を上から引っ掴み、政宗をぶら下げて空を飛ぶ小太郎の顔は楽しそうだった。
これ以上化け物に近付かないように、人間やめなくてすむように政宗たちがこれだけ心配しているというのに、どうして当の本人は平気な顔して笑っていられるのか。
「大馬鹿野郎だ、お前は!」
返事の代わり、勢いをつけて水車小屋へと放り投げられる。
ひとりでに開いた扉に飲み込まれる瞬間、政宗は首をひねって小太郎を仰ぎ見た。

逆光で黒く塗りつぶされた彼の姿は、すでにヒトの形をしていなかった。



だから、何で笑っていられるんだ。










クッションを山と積んだベッドに横たわって、分厚い本をめくっていた半兵衛はふと城の扉に目を動かす。
幸村と新しい新居を探検していたいつきは、扉から聞こえてきた盛大な音にびっくりして階段を降りてきた。
「お帰り、政宗君」
「一体どうしたべ?」
城に文字通り投げ込まれ、盛大に腰を打った政宗はしばらくその激痛に突っ伏したまま動けないようだった。
わなわなと怒りに震える腕で拳を作り、親指を下にし想像で小太郎の首を掻っ切る。
腰が痛くて立てなかったらどうするんだあの野郎。
「……Goddamn!ああ上等だ、こんな家出てってやるぁ!」
半兵衛といつきは顔を合わせると、わけが分からないというように揃って肩をすくめた。





















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