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夜も遅いというのに、遠くで鐘とサイレンの鳴る音が聞こえた。
「空襲警報だね」
「空襲?」
枕にぐったりともたれかかって、半兵衛が気だるそうに呟く。
もともと体が弱いのか、この城に来てからというもの彼はベッドか車椅子の上から離れるとすぐに倒れてしまうのだ。
「この街じゃない。けれど、今夜は外に出ない方がいいと思うよ。そこらじゅうで元就君の手先がこの家を探し回っている」
半兵衛の言葉を聞いて、外を窺っていた政宗はカーテンをぴしゃりと閉じた。あのゴム人間と目を合わすのはごめんである。
「よくわかるな、そんなこと」
「僕は、泣く子も黙る荒地の魔法使いだよ?これくらい魔力を使うまでもない」
「ふぅん?」
頷きはしたものの、あまり納得していない風の政宗にくすりと笑って半兵衛は暖炉の炎に目を細めた。
暖炉の中には佐助がいる。
「いい火だね……よくこの家を隠している」
僕と秀吉には敵わないけどさ。
遠い昔を懐かしみ、自慢げに語るその目は優しい光を浮かべていた。
半兵衛はほんの時々、昔を、秀吉の話をするときだけこんなに綺麗な顔を見せる。
「……お前は、なんで契約なんてしたんだ」
以前のように、君には関係ないと拒絶されるかも知れないと思ったが。今夜は違ったらしい。
ふ、と小さく彼の唇が弓を描く。
「一目惚れしたからさ」
「一目惚れって……」
「おかしいかい?誰かを想う事に性別なんて関係ないじゃないか」
同意を求められて、政宗は気まずそうに顔を歪めた。
確かに関係はないが、それこそが一番の問題なのだ。
「秀吉は、本当に大きな人だったよ。流れ星よりもずっと綺麗にきらきらと光っていて、誰もが彼の眩しさに跪いた。従わずにはいられなかった。彼は生まれながらの王様だったのさ。我が物顔でこの国の玉座に座っているあの一族よりも、ずっと」
「……」
「契約を結ぶことに躊躇いはなかった。今でも間違いとは思っていないよ」
緩く弧を描く半兵衛の笑みは、自嘲ではない。彼は本当に契約を過ちとは思わず、秀吉を誇りに思っているのだろう。
そこまで自信を持てる何かを、政宗は未だ持っていない。
だから、植物園で半兵衛を見捨てられなかったのかもしれなかった。魔力を失っても、満足に身体を動かすことができなくても、政宗が持っていない何かを彼は確かに手にしている。
「全ては僕の弱さだ……僕がもっと強ければ、秀吉にあんな負担を負わせることはなかった……」
「……半兵衛」
「それだけだよ」
心底疲れ切った風情で、半兵衛は目を閉じる。今の彼には、会話を続けることさえ負担だった。
最後にと呟く、独り言のように小さな声がなぜだか政宗の胸に強く残った。


「もう一度彼と会えるなら、僕は何だってするのに」





















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