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大通りには、荷物を背負ったり馬車に積んで街の外へ出る者が多く列をなしていた。
戦争の被害を避けるため、住人たちが田舎へ逃げていくのだ。
「みんな逃げだしたら、街中空っぽになっちまうな」
「……政宗も行きたいんか?」
「どうした、いきなり」
「さっきの人が、そう言ってた」
「ああ……」
政宗がいなくなった帽子屋を引き払った後、実家の地上げを手伝っている小十郎は自分と一緒に来ないかと、決して不自由はさせないからと何度も政宗を誘ってくれたのだ。
「……そうだな。小十郎と、また会えてよかった」
政宗が女になっていることにひどく驚いていたが、それでも彼は一目で政宗だと気づいてくれた。
それだけで、今まで生きてきた自分が肯定された気がして嬉しかった。小さい頃からずっと一緒だった。まるで片割れのような彼と、一瞬でも離れたことが間違いだと思えるほどに。
「政宗、行っちゃ嫌だ!」
ぎゅ、といつきにしがみ付かれて政宗は左目を見開く。
「おら、政宗が好きだ!ずっとここにいてほしいだよ!」
小さな体で精いっぱいに政宗を引き留めようとする姿がひどく愛らしい。
そっと背中に手をまわし、優しく抱きしめるとその温もりに口元を綻ばせた。
「……大丈夫、俺はここにいるよ」
「本当?」
「ああ」
目的を果たすまでは、ここを離れるわけにはいかない。
そう、政宗に掛けられた呪いを解いてもらうまでは。それまでなら一緒にいられる。
「おらたち、家族?」
だから、きらきらと期待に瞳を輝かせて見上げるいつきに政宗は何も言い返さず、ぎゅっと愛情をこめて抱きしめ返しただけだった。
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その病的に白い腕を伸ばして、半兵衛は小十郎が置き忘れていった鞄に手を伸ばす。
意外に早い動作で飛び出て来た細長い生き物を掴んで引きずりだすと、くすりと笑った。
「のぞき虫か。元就君も古い手を使うね」
そしてうねうねと動いているそれを、暖炉の中に放り込んでしまった。
「燃やしてくれたまえ」
「あーん……ってうわ、まずっ!ちょっと何これ、苦くて渋みがあり過ぎるんですけど!」
反射でのぞき虫をぱくりと食べてしまった佐助は、何度も火を吐いて半兵衛に文句をぶつけたが、当たり前のように荒地の魔法使いは聞いちゃいなかった。
「政宗君の縁者なら、魔法使い除けのまじないも効かないと踏んだのだろうが……」
一人で呟きながら、鞄の中身をひっくり返す。彼はまだまだ全てを諦めていない。
「元就君。君の思う通りにはさせないよ」
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