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単なるガラクタの集合体になった城に入り込み、暖炉のあった場所にシャベルごと佐助を置く。
「早く燃やすものを……って、ここ湿ってるし!」
「いつき、半兵衛をここへ!」
幸村が口に咥えて持ってきた棒きれを、佐助は無いよりはマシと細長い手を伸ばして受け取った。
半兵衛の手を引いてきたいつきは、城の中が予想よりずっと荒れ果てていたことに目を丸くしている。
「お城、空っぽになっちまっただな……」
「だから、あっちにいれば俺様と小太郎とで守れたんだよ」
愚痴愚痴と文句を絶やさない佐助に、階段を引っぺがして作った木の板をどさどさと被せて黙らせた。
「佐助、頼みがある」
本題はここからだ。
「小太郎のところまで行きたい。城を動かして欲しい」
「ええー?」
「お前なら簡単だろう?すごい力を持ってるじゃないか!」
「でもさ、ここには煙突もないし」
案の定、佐助はいい顔をしなかった。
ぽたりと天井から落ちてきた雨漏りに顔をしかめ、ふっと姑が嫁をいびるような指遣いで木の板を拭う。
「湿ってるしぃ……」
「昔から言うだろ、一流は場所を選ばないって!」
「そりゃそうだけどさぁ…………ううん、そうかなぁ」
常にない政宗の必死な顔と、いつきの期待に満ちた顔。
一つでも何か失態があれば鼻で笑ってあげようじゃないか、と言いたげな半兵衛の姿に佐助はちょっとだけやる気を出したらしい。
ちら、と、いつかのように何かを期待する目でオレンジ色の炎は政宗を見上げる。


「じゃあ、政宗の右目をおくれよ」


一瞬、理解ができなかった。
「……何だって?」
「俺様だけじゃ駄目なのさ、力を使うには代償が必要なんだ。目とか、心臓とか。アンタの右目はぐちゃぐちゃだし、もう目の役割はしてないけど一応まだ目蓋にくっ付いてるから特別割引としてそれで手を打ってあげる。悪い話じゃないでしょ?」
だって、アンタはそれが嫌いだものねえ?
上目遣いでニヤニヤと笑う佐助の顔を、政宗は口を歪に吊りあげながら笑い返した。
すっかり忘れていたが、確かに最初はこういう関係だったのだ。
「左目じゃないだけありがたいと思えってか?」
「んー、まあ、右目の方が俺様の好みってだけでもあるんだけど。どう?」
「ha!わかりきったことを聞きやがる」
「政宗!?」
「心配すんな、いつき」
彼女を下がらせ、見えないようにしてから右目につけた黒の眼帯を引き剥がした。
白く濁った眼球は、赤く腫れあがった瞼に隠されている。引き攣れて皺の寄った肌は、政宗が北国育ちで他が白い分異様な圧迫感を他に与える色をしている。確かに大嫌いな部分だ。長年一緒だったせいで、なくなると思えば淋しいとも思うがそれだけである。
今更右目を失くしたところで、これ以上醜くなりようもない。
「持っていきやがれ」
政宗の言葉を聞いて、佐助は嬉しそうにくつくつと笑った。
オレンジ色の炎が勢いよく燃え盛り、政宗の右目を掴もうと暖炉から佐助の細い腕が伸びる。
思わず後ずさった政宗を追って、五本の指がぶわりと広がった。


「これで、俺とアンタは二重に契約する仲になったわけだ」


佐助の、酷薄に弾んだ笑い声。
押し当てられた佐助の手は、燃えるように熱かった。火でできている身体なのだから、当たり前かもしれないが。





















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