―――――



するりと骨ばった指が右の頬を伝う、その冷たさに政宗は訝しげに左目を開く。
オレンジ色の髪を炎のように後ろへ流した、政宗の知らない男が目の前で笑っていた。
「約束だからね、アンタたちを小太郎のところまで連れてってあげるよ」
額を晒して狐のように細い眼を見せている以外は、驚くほど小太郎と似た顔立ちをしている男だった。
彼の言葉と、見覚えのある笑い方に政宗は茫然と呟く。
「佐助……?」
「そ。惚れた?」
冗談めかして笑う佐助の声には、もう薪が燃えてパチパチと爆ぜる雑音が混じっていない。
彼の周囲にはオレンジ色の炎が燃えていたが、不思議ともう熱くはなかった。ぐい、と肩を引き寄せられ佐助と政宗の顔が近付く。軽い音を立てて温かい何かが政宗の瞼に触れ、すぐに離れた。
文句を言うよりも先に、佐助は手早く黒の眼帯で政宗の右目を隠してしまう。目線で外を見るよう促されると、ただのガラクタに戻ったはずの城が、また形を変え収縮し、轟音を響かせて荒野を駆け下りているのがわかった。
「ねえ?凄いでしょー」
「ああ……thanx、佐助。さすが一流だな、恩にきるぜ!」
「これくらいお安い御用ってね……なんなら、小太郎から俺様へ乗り換えたって構わないんだよ?」
頬と頬がくっ付きそうなほど近い距離で囁かれ、政宗はぞくりと背中を泡立たせた。
いきなり耳元で囁かれたからで、他に理由はない。
「ごめん、無理」
「…………」
「可哀想な奴だべ……」
「ふ、猿のように焦るからそうなるんだ」
「ワン!」
「え、ちょ、犬の旦那にまで同情されるんだ俺……」
せっかく人間の姿になったというのに、早速いじけて部屋の隅っこに体育座りをした佐助を半兵衛が鼻で笑った。
佐助の後ろに立って、無造作に鉄のシャベルを振り上げる。


「全く、恋に狂った者とは恐ろしいね」





















→next