ラブソングの終止符は鳴らない
06.10/7




(何故、躊躇ったのだろう)


切れ長の左目を見たことがないほど大きく見開いて、多分この人は信じられないって顔をしてるんだろうと思う。俺も信じられないよ。何度も夢に見て想像してはいたことだったけれど。
もう立っていることも辛いんだろう。足元がもつれて、ふらりと前に倒れこむ。
俺の刄をその身体に深く食い込ませたまま。誰がどう見ても立派な致命傷。
アンタが刀を振り下ろすより、俺が刄を突き刺すほうが早かった。
それだけ。
本当に、それだけ。

(刀を振り下ろすその手が、動きが一瞬止まったなんて目の錯覚だ)

倒れる身体を受け止めるように抱きしめると、血が大量に流れているくせ鉛のように重くて、ああ、本当に死ぬんだなと思った。
血脂に汚れたままの刀を握り締めたまま、ぎりぎりと力強く歯を食いしばったまま、左の瞳は未だ鋭く光っているのに、それでも彼は死んでしまうのだ。
ひゅうと不自然な音を立てて、喉から息を漏らす。俺の肩をひっかく左手にはもう何の力も残っていない。あの六爪を扱う握力に何度泣かされてきただろうと、これからはもう思い出すくらいしかこの人を感じることが出来ないのだと思うと多分俺は泣きたいのだと思う。

「……政宗」

長時間の戦のために掠れた声で名前を呼ぶと、地面を睨んでいた左目がぎゅうと細められる。
ゆっくりと見上げて俺と目が合うと綺麗な顔を歪めて、多分、あの顔は笑っていたのだと思う。口元をちょっと皮肉げに吊り上げた、あの懐かしい顔。
とん、とおそらく最後の力を使って俺の肩を押すと、アンタはあっさり俺の腕からすり抜けて遠く離れた場所へ行ってしまう。いつものように。










「クソッタレ」










最期の言葉がそれだなんて、ちょっと酷くないだろうか。
しかも俺の腕の中で死ぬのはお気に召さなかったらしい。なんて酷い人。俺が殺しちゃったんだけど。うつ伏せに倒れたまま、もうアンタは俺のどんな言葉にも何も返してくれない。

「政宗……」

傍らにしゃがみこんで、戦に汚れた茶色の髪の毛をそっと撫でる。生ぬるい風にさわさわと揺れてとても心地がいいと思うのだけれど、くすぐったそうに笑うあの優しい笑顔は二度と見ることが出来ないのだ。
悲しい、淋しいとそんな言葉ばかりが頭の中を駆け巡るくせ、俺ときたら涙も流さないでただぼんやりとアンタの傍らに座り込んだままどうにも動くことが出来ないでいる。
この広い世界で、ただこの人だけが特別な存在だったのに。
ひたひたと迫る喪失感。俺が殺しちゃったんだけど。


(何故、俺はアンタを殺せたんだろう)
(終わりのない疑問だけがぐるぐると)










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