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時は来たりて
夢は夢

そして君は帰ってこない


素っ気無く背中を向けていってしまった彼の横顔を、僕は今でも覚えている









白昼夢









曖昧な光に照らされた薄暗いホール。規則的に並べられた備え付けの客席。正面にあるスクリーンにはノイズ混じりの映像が断片的に流れていて、アアここは映画館なのだと獏良はぼんやり考えた。別にどこでも構わないのだけれど。今の自分が見るもの触れるものは全て泡沫よりも頼りないものだということを理性よりも先に感覚で彼は理解している。
客席の中央、だらりと席に背中を預け億劫そうに座っている隣の観客に眼をやると、三千年を生きた疫病神はちらと横目で彼を振り返って歪んだ笑みを浮かべた。
自嘲にも取れるその笑みに、自分が歓迎されていないことを感じたが立ち去ろうとは思わなかった。ぼんやりと眺めていたら見覚えのある腕が伸ばされて、獏良の肩を抱き寄せる。歓迎されずとも、追い出されることは無いようで少し安心した。
静かな時間だった。カラカラと映写機が回る音のみがこの空間に響いている。古ぼけてノイズばかり走っている割、病的なまで真っ白なスクリーン。流れる酷く断片的な映像。
目の痛くなる光景だったが、二人はそれを見詰めていた。長い間、ずっと。


「……懐かしいね」


ペガサスに誘われた遊戯たちと共に、千年王国に向かったときの映像だった。地下の迷宮をさ迷い、表と裏、どちらが正解かを見極めなければ地上に出ることを許されなかった、仕組まれた謎かけ。
あの頃はまだお前に慣れていなかったからビックリしたと、面白そうに獏良が笑うと憮然とした顔で睨まれる。それさえもが今は面白い。

他にも、二人が初めて会話をした瞬間、TRPGで遊戯たちと戦った場面、バクラがナイフで二の腕を切り裂いた時、ジオラマの尖塔で手の甲を貫いたり、神のカードを賭けて飛行船の上でデュエルをした事もあった。宿主を庇い神の攻撃を受けたバクラ、行方の失せた千年輪を探す獏良の姿が流れたときは、お互い少し気まずい思いをしたりした。BLACKCROWNでは王の器の戦いを見守った。闇の扉を開くために、無名の王に千年アイテムを渡すバクラの後姿。他にも様々、二人が経験してきた事柄が次々と時間も順序も関係なく流れては消える。

懐かしい思い出話にぽとりぽとりと花を咲かせながら、けれど獏良はじわじわと落ち着かない気分になっていく自分に気付いている。
だってこんな、昔を振り返るだなんて、まるで。


(まるで走馬灯みたいじゃないか)


堪らず横にいる男を見上げると、スクリーンの白光が照明となって、ただでさえ白い顔と髪が同化して何か別の生き物に見えた。
流れる獏良の髪を時折弄りながら、バクラはじっとスクリーンから目を離さない。
無秩序に流れていた映像が更に断片的なものとなり、次第に獏良の知らない映像が紛れ込むようになった。

「ねえ、これはお前が今まで見てきた記憶なの?」
「……ああ、そうだ」

ノイズも酷くなる。
合わせたかのように、スクリーンの光に照らされたバクラの紅の瞳が一瞬、鮮やかな光を見せた。その光の苛烈さに、炎が燃えているようだと獏良はそっと考える(それとも、本当に燃えているのだろうか)

「……お前、さ」
「何?」
「……なんでもね」

バクラが、獏良の手を強く握り締める。本当に微かだったが、僅かに震えていることに驚いた。彼が自分に弱みを見せてくることは本当に珍しいことで、嬉しいけれど同時に酷く痛ましい。空いた手でそっと包み込むと、驚いたように紅の瞳が見開かれる。どれだけの効果があるかわからないけれど、少しでも安心してくれたならそれでいいと思う。
紛れ込んだ映像は、次第にメインへと移り変わっていく。メディアを通してしか見たことの無い異国の風景、知らない異国の人々。
しばしそれらが早送りのように流れ、途端にブツリと音を立てて消える。最後に見えたのはただただ広い黄金色の砂漠。
しばしの沈黙(嫌な予感)












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